ハリハリのブログ

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世界は進歩している~ミュージカル「パジャマゲーム」感想~

!注意!
ふつうの感想エントリではありません!
北翔さん美しかった!とか新納さん格好良かった!みたいなことはあんまり書いていません。お二人とも素敵でしたがお二人が素敵だったことは他のブログがほめたたえているはずなので私は別の話をします。
ネタバレもあります。ネタバレしかないレベルです。

 

 

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10/1(日)マチネ パジャマゲームを観劇してきました。

時は1954年。周囲の工場が次々と給料アップを果たす中、スリープタイト社のパジャマ工場でも労働組合が立ち上がっていた。

組合の中心はベイブ・ウィリアムス(北翔海莉)と組合委員長プレッツ(上口耕平)。彼女達は時給7セント半の賃上げを求め、奮闘する毎日を送っている。
そんな中、社長ハスラー(佐山陽規)が雇った新工場長のシド・ソローキン(新納慎也)は若くてハンサム。女子社員の間では、お昼休みも右腕チャーリー(広瀬友祐)を連れて一生懸命働く彼の噂で持ちきりだった。
工場のタイムキーパー ハインズ(栗原英雄)は「もしや自分の恋人も…」と社長秘書である恋人グラディス(大塚千弘)の事が気がかりでしょうがない。シドの秘書メイベル(阿知波悟美)はそんなハインズを優しく諭し、新工場長は上手くやっていけるかと思えたのだが、反抗的な従業員との間でトラブル発生!駆けつけた労働組合と工場長、相対する立場のベイブとシドが運命的に出会う。

一目見た瞬間から惹かれあう二人だが、ベイブは自分の立場を優先するあまり、彼の誘いにつれない素振りをしてしまうのだった…。

http:// http://pajama-game.jp/about/

 

 

 

最初期のトニー賞受賞作ということで、わくわくしながら劇場へ。
ミュージカル・コメディと打ち出されたとおり明るくハッピーな作品でした。古き良きミュージカルソング、というかんじのナンバーが多くて多幸感やばい。
とくにピクニックのシーンは鍛え上げられた肉体で繰り出されるポップな外遊びダンスがとってもかわいかったです。1954年当時モデルのサマードレスがひらひらするの素敵だし、オーバーオール男子たちが頑張ってるのキュンキュンきます。

 

それと同時に、素に戻ってしまうシーンがたくさんあったこともまた正直なところでした。

役者さんたちのせいではありません。みなさん非常に見事に演じていました。
スタッフ・キャストの技量のせいではなく「えっ?」となってしまうのは、脚本のせいです。この作品が1954年当時に1954年当時の世相を1954年当時の観客に向けて作られたせいで、2017年の我々にジェネレーション・ギャップを生んでしまったのです。
たとえるなら自分の父親が「俺たちの時代は徹夜なんてしょっちゅうだったのに最近の若者は……」と悪気なく言うのを聞いてしまった気分。
不可避の事態だったと感じます。
(でも演出のトム・ザザーランドはその辺把握して演出つけたんじゃねえかなという疑惑が個人的にはあります。グランドホテルでの所業を私は忘れていないぞ(褒めてます))

 


具体的にあげていきましょう。
さきほども話題にしたピクニックシーン。歌に入ってからはハッピー&ハッピーなのでいいのですが、問題はその前。

あらすじにも登場している労働組合委員長プレッツが、いわゆるヤリチンであることが発覚します。彼氏持ちの女にアプローチをかけたかと思えば、その女に振られると別の女の子を二人きりで森の中を散歩しようと誘います。
しばらくするとプレッツに誘われた女の子が「あんたの散歩ってのは押し倒すって意味なのね!」と叫びながら逃げ戻り、プレッツが後を追いかけてくる。同僚の女性たちは女の子をかばい、男性陣も若干非難めいた反応。
でも、それだけ。
プレッツは排斥されることなくピクニックに参加し続けます。

おいおいマジかよ!?って思うじゃないですか。
強姦未遂は微妙としてもセクハラの相当重度なやつであることは21世紀人であれば合意できるでしょう。
でもプレッツは作中で報いを受けないんです。
てゆーか人気者なんですよ。組合の委員長任されてるくらいだから信用あるし、ピクニックも幹事やってるし。友達たくさんいそうだし。なぜかピクニックの最後で年増に食われるし。
ちなみにプレッツは既婚者です……。

もうこの時点で「正義がない……この組合には正義がない……。だめだ賃上げ交渉を心から応援できない。工場長を非難する前に組合委員長のリボルバーを切り落とすのが先だよ……」みたいな気持ちで観るしかなくなるじゃないですか。
「でもこういう職場、いまの日本でも山ほどあるだろうな」とか浮かんでくるのを必死で押さえつけるじゃないですか。組合のトップがセクハラ野郎のヤリチンって地獄かよ。
舞台上では主役バカップルがすんげえ楽しそうに歌い踊ってるじゃないですか。
すんごい座り悪いよね。
(何度も言いますがパフォーマンスは素晴らしかったんですでも人によっては闇を感じるうえにそれを登場人物たちが無かったことにするからああああああ)


パジャマゲームの縦軸が賃上げ闘争ならば横軸は主役カップルのラブストーリーなのですが、そのラブストーリーも現代感覚だとかなり怪しかったです。
だってこいつら、対話してない。
主役カップルは工場長×組合の女性取りまとめ役という考えうる限り社会ステータス上最悪の組み合わせ。お互い一目ぼれしたものの、最初はヒロイン側が付き合いを拒否します。クレバー。
しかしヒーローが押し切る形で(妥協っつってたけどあれはゴリ押しだ)ヒロインは流されてバカップル化。
まあそれはいい。足元が地雷原なのを忘れて舞い上がり、事故ったのもしかたないとしよう。恋愛ってのはそういうものだ。

でも一度痛い目みたら学ぼうよ!?
具体的にはちゃんとお互いの話を聞こうよ。二人とも「俺の話を聞け」ってばっかりで「お前の話を聞かせろ」とは言わないの、劇中の賃上げ闘争レベルで平行線だったぞ。
恋愛がらみのナンバー、基本的には「あなたが好き(そのために私は困っている)」しか言ってねえの私は知っているぞ。

これがですよ。最終的に二人が対話し理解し妥協しあうことによって、労使間の相互理解と妥協が生まれたら美しいじゃないですか、物語として。セカイ系じゃないですか。
そんなことに全然ならないんですよ。
工場長が(恋愛がモチベーションになったことは否定しないけど)一人で頑張って、妥協に至るキーを獲得して社長をうんと言わせただけです。
解決の直前に二人がしたのは「言い訳をさせてくれ」「あなたの話なんか聞きたくない」という最高にすれちがった会話。
工場長よ、「労使間交渉のゴールは妥協です」ってお前が言ったんだろ……。妥協するには相手の立場を知らなきゃいけないんだよ……。
そして賃上げにOKがでたことで、二人が劇中のトラブルを水に流すことでハッピーエンド。でした。


続かねえー!ぜってえこの二人続かねえー!
ヒロインがふつうの性格だったら別だけど(この時代にしては珍しく)自分の意志を強く貫くタイプだからいつか絶対似たようなトラブル起きるー!
そのときの解決策が今回見出されてないー!アウトー!

……って思いましたね正直。
いや、トラブルが起こるたびに別れたりくっついたりする気なのかもしれないですけどね。迷惑だけどあの二人っぽさはある。


ぶっちゃけ脇役カップルのほうがよっぽどコミュニケーション取れてたんですよね。年季はいってるのもあるでしょうが。
彼氏がヤキモチ焼きで、セクシー秘書の彼女はスキンシップ過多なタイプ。彼氏はいつも彼女の一挙一動にハラハライライラしている。
ハンサムな工場長に秘書がメモを残したのを「なんだこれは!」とキツく詰め寄る彼氏。秘書が「言いがかりはよして。中身を読みなさいよ」と促すと、内容は本当にただの業務メモ。愕然とする彼氏に「それ、モールス信号でI love youって意味だから」と捨て台詞を残して秘書退場。

……ってシーンが冒頭にありましてね。これだけでちゃんとコミュニケーションが取れてるのわかるじゃないですか。
彼氏は早合点してキレるけど「どういうことだ」って彼女に話させようとするし、彼女も彼女できちんと反論して怒りの表明(皮肉)ができている。
(このレベルでコミュニケーション取れてるって主役カプどんだけだって思うでしょ?ほんと対話してないんですよ)
秘書カップルは安心してみていられました。幸せになれ。大塚千弘さんのセクシー秘書グラディスくっそかわいかったので、彼女を見るためにもう一度劇場に行きたい気もする。めちゃめちゃ可愛かった。

 

 


ここまで書いたことがいちゃもんだってのは重々承知してるんですよ。
でもモヤモヤしたし、モヤモヤしたということが良い兆候であることも知ってます。
21世紀日本の感覚でパジャマゲームが受け入れがたいということは、60年前よりは現代はかなり進歩しているという証だからです。

私はセクハラがまるで何でもない事かのように描写されているのは受け入れられないし、男女が(むろん同性同士でも)対等に対話していないのを良い恋愛とは思わない。2時間残業がデフォな職場は少なくともグレーだと感じるし、盲目的な信頼は害だと考える。
あと登場人物が状況を作るためのコマになっている作品はあまり美しくないと思うし、コメディであっても辛い描写は濃くやっていいと思うし、ペラいキャラが主役級にいると辛く感じます!!(とくに主役とチャーリー!)

社会もミュージカルも進歩してる。いまは1954年じゃない。
それをはっきり感じられただけでも、パジャマゲームを観に行ったのは正解でした。
かくあれ。進歩してゆけ。21世紀の私たちを置いていけ。