ハリハリのブログ

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ミュージカル「HEADS UP!」感想

2017年の観劇納めが最高の演目だったので感想を書きます。

いやほんと。このブログ読まなくてもいいんで観に行ってください最高ですから。言いたいことはそれだけなんです。

 

 

www.m-headsup.com

 

ミュージカルファンなら誰もが知る”あの名作”が1000回目の公演を終え、華々しく終了する、はず…だった。
しかし、主演俳優の鶴の一声で、某地方都市の古い劇場で1001回目を上演することに!

さあ、現場はてんやわんや。舞台美術は廃棄済み、スタッフの人手も足りない、キャストのスケジュールも押さえていない…、さらに、舞台の総指揮を執るのはこの作品が初めて、という新人舞台監督!とんでもない条件の中でもスタッフたちは必死に幕を開けようと奮闘する。幸か不幸か、チケットは完売、つまり観客が待っている!!

舞台本番当日、新米“舞台監督”のデビュー作は問題山積!
果たして幕は無事に開けられるのか…。

HEADS UP! あらすじ
http://www.m-headsup.com/introduction.html

 

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体ごと楽しめるミュージカル・コメディ

シリアスな作品も決して嫌いではありませんが、私は笑える作品のほうを好きになる傾向にあります。
創作やったことある人ならわかると思うんですけど、人を笑わせるのって難しいんですよ。泣かせるのも難しいですけど笑わせるのは本当に難しい。
コメディ脚本書けって言われたら、私は逃げ出したくなります。
だからまず質のいいコメディは尊敬が先に立つんですが……。

それはそれとしてHEADS UP!はめちゃめちゃに笑わせてくるんですよ!
時間当たりの笑った回数、アベニューQより上かもしれない。一幕終わりとか笑い死ぬかと思ったわ。
しかも力技の笑い(変顔とか奇声とかイジりとか)はほとんどなくて、ひとつひとつの笑いどころが上質。
下手なお笑いライブ行くより笑えることは保証します。

基本的にはミュージカル好きに狙いを定めた作品ですが、舞台をあまり見ない人もきっちり引き込んでいくようにつくられています。(ド頭のシークエンスはほんとうに良くできている。大人向けの「♪幕を開けよう(劇団四季)」ってかんじ)
ひいきの役者が出ていたりするなら観て損はないです。
生で見る哀川翔ヤバかったですよ。最前で見てしまったせいもありますが色気にくらくらきました。

 

リッチな曲と振り付け

私が和製ミュージカルを敬遠する理由の一つは、単純に質が低いからです。
役者ではなく、脚本演出音楽振付あたりになーんか逃げを感じることが多い。テニミュに代表される2.5次元のほうが、芸は荒くてもチャレンジしている分すがすがしいです。
腹が立つのは、海外作品の翻訳上演をやるなら難しいことやらせるんですよ。役者も応えるんですよ。つまり海外作品ができる(歌って踊れる)スキルは役者のほうにあるにもかかわらず上流工程が逃げをうつんですよ!

で、HEADS UP!がどうだったかというと、めちゃめちゃ攻めてました。
いや重唱とかちょっと稚拙だったところもあったけどねでも豪華だった。ふだん翻訳歌詞ばっかり聞いてるから、最初から日本語で付けられた歌詞の聞き取りやすさに泣きそうになりましたよ増えろ良質和製ミュージカル。
「チケットは売れている」とか最高でしたね。

振付もわかりやすくて楽しくてかっこいいというミュージカルとしては最高オブ最高。川崎悦子さんってどなただろうと調べてみたらキャラメルボックスとかの振付もしてたんですね超納得。

 

舞台が好きな人すべてに刺さる

HEADS UP!は舞台裏ミュージカルです。
いわゆる楽屋ものくくれなくはないのですが、やっぱり「舞台裏」と言うのがしっくりきます。なぜなら役者ではなく裏方スタッフの話だから。
主役は舞台監督。ストーリーの中心は仕込み*1とバラし*2

私も大学サークルでミュージカルをやったことのある人間なので、めちゃめちゃ懐かしかったです。なぐり(=かなづち)とか久しぶりに聞きましたわ。
「ここ危ないよ」みたいなセリフが何度も出てくるんですが、わかるわかる。劇場ごとに危険な場所って絶対あるんですよ。見えづらい段差とか天上低いとか。お互い声をかけあって注意し合わないと誰かが怪我するんです。(新人が怒鳴られる一番の原因であり、スタッフも声を出さないと怒られる理由)
観る専の人にとっても、「裏ではこんなことやってるんだー」と感慨深いことでしょう。演劇ではなく、コンサートやライブが好きな人にも通じるものがあると思います。

 


さて、ここからネタバレありの感想になります!

行をあけるので観てない人は鑑賞後にどうぞ~。↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまでも誠実な構成

HEADS UP!のテーマはなにかと問われれば、私は「舞台愛」であろうと答えます。
古今東西、舞台とは何か演劇とは何かという作品はたくさん作られていますが、ここまで深みがあって楽しい回答を見られて本当によかった。

印象的なのはラストで新藤(新人舞台監督)が撤収直前の最終確認を行い、床板のあいだに挟まった紙切れ(?)を見つけて取り除くシーン。
あれ、雪のシーンとかで使った紙ふぶきの可能性もあるのですが、おそらく「ドルガンチェの馬」の前に使った団体が残していったゴミなのではないかと思います。
「クギ一本残してはいけない」と歌われたように、ドルガンチェのカンパニーも物理的にはなにも黎明会館に残してはいかなかった。むしろゴミをひとつ取り除いていったくらいです。
作って壊して、何も残さない。その場にいたスタッフと役者とお客さんの熱だけが劇場に沁み込んでいく。その熱は目に見えなくてもたしかにある……と信じて舞台は上演され続ける。

美しいなあと感じ入るしだいです。
あのシーンに説得力を持たせたのは中川・相葉両者の芝居ももちろんですが、HEADS UP!のカンパニー全体がその思いを共有しているからこそだろうなと思います。

 


クソなところもちゃんと表現する

笑いにまぎれて、演劇業界のクソなところもちゃんと言及されてたのめちゃめちゃ誠実だなと思いました。
具体的には「あたしの夢は『女で舞台監督』」と話す小道具係とかですね。
夢は舞台監督、じゃないんですよ。"女で"舞台監督なんです。つまりプロで食ってる女の舞台監督がたぶん日本に存在していないか相当な希少価値だということです。ちなみにHEADS UP!の初演は2015年なので現代の話です。

小道具係役の新良エツ子さん、笑顔と元気が素敵だったのですがそれよりなにより胸がデカいんですよ。たぶんEはある。黒の半そでポロシャツがきれいなお椀型に盛り上がっていました。すげえ眼福だったというのはおいといて、間違いなくこのキャスティングはわざとです。
豊かな胸は古来より女性のシンボルなんですよ。それをしっかりもっている人が「舞台監督になりたい」と言うのマジしんどいなと思いました。

食えない役者がバイトのほうのプロになってしまうとか、大御所役者に振り回されるとか、ベテラン演出家に現場が振り回されるとか、役者のプライベートな人間関係で現場が振り回されるとか……
コメディタッチだから笑って見れますけどあれシリアスにやったら地獄絵図ですからね。エンタメ業界にいる人たちはほんとに覚悟ガン決まりだと尊敬するとともに、「もっとクリーンになってくれよ……」と思ってしまいました。
素敵な舞台の裏が地味なのはいいけど、裏がイリーガルでブラックなのは嫌だもの。チケット代を払っている以上、この点についても我々は共犯関係なのだと思います。

 

 

フツメンとブサイクが大活躍

メインキャラがだいたい出そろったところで思ったのは「すげー、美形がいない!!」でした。
新藤役の相葉裕樹さん、バイト君の池田純矢さんを除いて、残りの男性陣はおっさんとフツメンとブサイクとデブなんですよ。アンサンブルもブサイクにみえるメイク衣装。女性陣もアンサンブルと主演女優以外はパッとしない見た目。
ミュージカルってステージにいるひとみんな美形がふつうなので、めちゃめちゃ新鮮でしたフツメンだらけの舞台。
(あー、ブロードウェイ版のビリーエリオットはフツメンだらけだったな。ああいうかんじです)

黙ってたらパッとしないフツメンたちがめちゃめちゃ生き生きと裏方を回してるのはすごい元気がでます。
なにがすごいって、あの場でいちばんイケメンな新藤は自分に自信がないせいで微妙にオーラが薄いんですよ。演出部のおっさんたちのほうがよっぽど格好よく見えるレベル。
人間は顔じゃねえってのはこういうときに言うべき台詞ですね。

 

哀川翔がエロイ

生で哀川翔を見たのはじめてだったのですが、ヤバイですね。
引き寄せられるような色気がありました。くらくらした。

 

 

 

以上、思いつく限りの感想をあげてみました!

HEADS UP!はいいぞ。

*1:劇場で上演の準備をすること。大道具のセット、照明や音響の調整、衣装・小道具の搬入その他いろいろ。時間との勝負。危険。

*2:上演が終わった舞台を原状回復して撤収すること。スケジューリングによっては時間との勝負。危険。