シンパ×カリスマ型カップリングはいいぞ~グラアンから黛赤まで~
聞いてほしい。
推しカプのルーツをついに見つけてしまった。
文学少女と萌えの出会い
三つ子の魂百までとはよく言ったもので、べつに三歳のころに出会ったわけではないが小学校のころに読んだある小説が、私の萌えの原点だ。
私はよく本を読む子供だった。
しかしながら乱読派ではなく、どちらかというと気に入った本を何度も何度も何度も何度も覚えてしまうまで読むタイプだった。広く浅く読む性質だったらいまどれほどの知識がついていただろうと残念に思わないではないが、性格なのでいたしかたない。
その本を見つけたのは小学四年生のときだったと思う。
有名なタイトルだったから目につきやすかった。けれど知らない物語に入るのにエネルギーを要する私は、気を惹かれても手に取らない本が無数にあった。それなのに本棚からその文庫本を取り出したのは、背表紙のせいだ。
少女の大きな瞳が三冊の背表紙に分かれて私を見つめていた。
本のタイトルは、「レ・ミゼラブル」。
子供向けに抄訳されたレミゼラブルの文庫を借りた私は、返すまでに三度は読み返した。その後も、読み返したくなるたびに図書館から借りて行った。
学校の図書室にもレミゼラブルはあったが、訳文が好みではなくもっぱら近所の図書館のレミゼを私は読んでいた。たしか三省堂の文庫だった。翻訳によって味わいが変わることを教えてくれた作品でもあるわけだ。
思えば、レミゼは私の道徳心・倫理観の根幹を創ってしまったような気がする。
善が善と見えないことはしばしばあり、それでも善を為そうとすることは素晴らしいのだ、と教えてくれた。(あとファンティーヌの転落振りは、ちゃんと人を選んでしたたかに生きないと食い物にされて終わることも教えてくれた。)
好きなシーンは数えきれない。逃避行のさなかフォーシュルヴァンに再開する場面、バルジャンを救うために生涯最初で最後の嘘をつくシスター、誤って捕えられた男の裁判におもむくバルジャン、規律を自分にも厳格に適用して辞表を提出するジャベール、コゼットがバルジャンとともに旅立つシーン、そして何よりバルジャンを受け入れた司教様(私は銀の燭台云々のくだりよりも、バルジャンが尋ねる前後のシーンのほうが思い入れがある。あの時点で司教の慈悲深さがマックスに描かれているので盗みのあとは逆に出来レースくらいに見えていた)
そして推しカプへ
思い出話が長くなったところで、本題に戻ろう。私の情操教育に大いに貢献してくれたレ・ミゼラブルは、同時に萌えの原点も与えてしまっていた。
ご紹介しましょう。
グランテール×アンジョルラスです。
彼らは二人とも革命を志す学生だが、その立ち位置は真逆といえる。アンジョルラスは学生たちのリーダーとして慕われている。カリスマ性にあふれ、志高く、そしてアポロンに例えられるレベルの美男子だ。作者は完全に彼を完璧超人として描いている。(私は一度でいいから原作生き写しのアンジョルラスを舞台か映像で観たい)
対するグランテールはグループの厄介者という立ち位置だ。革命グループにいるのに、懐疑主義的視点を隠さない。いつも酒を飲んで、革命のための話し合いにはまともに参加せず、賭博に女にと遊びまわっている。「理念のために死ぬのは馬鹿らしい」という態度を隠そうともしない。グループの鼻つまみ者であり、アンジョルラスも好印象は持っていなかった。
ではなぜグランテールは革命グループに参加しているのか?……アンジョルラスがいるからである。
思いっきり、作者ユーゴーが書いている。公式が言っている。
それにこの懐疑家は、一つの狂的信仰を有していた。それは観念でもなく、教理でもなく、芸術でもなく、学問でもなかった。それはひとりの人間で、しかもアンジョーラであった。グランテールはアンジョーラを賛美し、愛し、尊んでいた。この無政府的懐疑家が、それら絶対的精神者の一群の中にあって、だれに結びついたかというに、その最も絶対的なるものにであった。
こんな、ものすごい熱量の片思いをしているのである。
グランテール→→→→→→→→→→→→→→→→→→→アンジョルラス ってかんじだ。懐疑主義者が唯一「君を信じているよ」と言う相手。もうこれだけでそうとうヤバイ。
ちなみにアンジョルラスからは基本的に誰に対しても矢印は伸びない。アポロンだから。
そんなとんでもねえ片思い状態にもかかわらず、グランテールはアンジョルラスに協力したり追従したりしようとしない。その理由はさまざま考えられるし早々に結論をつけてしまってはもったいない案件なので後日に譲るとして、グランテールが信仰対象に従わなかったがために何を失い何を得たのかの話をしよう。
革命理念のために戦わなかったグランテールは何を失ったか。それはアンジョルラスからの敬意であり、友愛であり、そしておそらくいっしょにいる時間だった。作中グランテールはアンジョルラスに何度も厳しめの叱責を受けていて、ガチで傷ついたらしいシーンもある。そしてよりにもよって、戦闘が激化しついに本拠地が落ちようとするときに泥酔していたせいで参加できないという大失態を犯す。グランテールはアンジョルラスとともに戦うことは、ついに一度もしなかったしできなかった。
では何を得たのか?泥酔していたせいで本拠地の奥に忘れ去られていたグランテールのもとへ、敵兵に追い詰められたアンジョルラスが逃げ延びてくる。アンジョルラスはそこに至るまで、仲間たちに「お前が生きていれば革命は続く」とばかりに、命を賭して逃がされてきた。そしてついに敵兵に囲まれたアンジョルラスは革命の理想の象徴として死に瀕する。
そこに、グランテールは立ち会うことができた。
物音で目をさましたグランテールは、寝たふりをしていれば助かるかもしれないと知りながら立ち上がってアンジョルラスの隣へ行き、ともに死ぬ許しを求めた。アンジョルラスはそれを受け入れ、二人は撃たれた。
……エモくない!?
腐女子の基礎教養にするべき二人だと思っているのは私だけではないはず。
自分の信念とはぜんっぜん合わない相手にも関わらず強烈に愛してしまった相手を、しかし自分なりのやり方でしか愛せなかったあげく、最後の最後に報われる。(報われなくてもそれはそれで美しいと思う。そもそもアンジョルラスを信仰し始めた時点でグランテールに選択肢はなかった)
アンジョルラスはアンジョルラスで、「君を(=革命のリーダーとしてではないアンジョルラス個人を)信じている」と言ってもらえるのは救いだろうと思う。
シンパ×カリスマ型カップリング
さて、ここまでは前置きだ。
グランテールとアンジョルラスが、私の萌えの原点であると冒頭で話した通り、私がこれまでドハマりしてきた推しカプはたいていこの類型に当てはまる。
グラ×アン的カップリングを「シンパカリスマ型CP」とここでは名付けておきたい。
グランテールがシンパで、アンジョルラスがカリスマだ。カリスマ受けです。
シンパカリスマ型CPはおおよそ以下のような特徴がある。
- シンパ→→→→→→→→→→→(←)カリスマ。シンパが強烈に片思いをしている。
- シンパの思想信条はカリスマのそれと一致しない
- カリスマの善悪正邪をシンパは問題としない
- シンパは両想いになることを重要視していない
- シンパはカリスマの解釈違いに厳しい
- シンパはカリスマを愛するための損をいとわない(リターンがあるという意味では無い)
(あれ……これってむしろユダジーザスCPって言ったほうがわかりやすいんじゃないかなでもさすがにそのネーミングは危険だからやめておこう)
では、実例を見て行こう。WJ漫画ばかりになったのは、なんだその……許してほしい。
あとこっからはただの萌え語りが加速するので、苦手だったらUターンしてね。
1.瀬戸健太郎×花宮真(黒子のバスケ)
カリスマが悪いやつだったパターン。
しかし上記に挙げた通り、シンパにとってカリスマの魂こそが大事なので表向きに現れている行動が善くても悪くても関係ないです。もし花宮がとつぜん「砂漠を緑化するぞ」って言い出しても瀬戸健太郎はついていく。(まあ他の霧崎メンもぶーぶー言いながらついていくのだけど)
わりと瀬戸にとって救いなのは、花宮が身内は大事にしてくれるタイプなことでしょうか。今回あげるCPの中では屈指の報われているシンパだと思います。
ただし瀬戸に花宮は必要ですが花宮に瀬戸は必要ってわけじゃないので、瀬戸はいつ自分が「いらない」っていわれるか潜在的に恐怖し続ける運命にあります。明確な脅威が現れたら黒崎(2組目参照)みたいな状態になる。がんばれ。
2.黒崎×内海(機動警察パトレイバー)
カリスマが悪いやつだったパターンその2。
しかし瀬花よりもだいぶ黒崎さんはかわいそう感が強い。基本的に内海課長の興味、グリフォンにあるから……。そのせいで幼女(バド)にかなり醜い嫉妬をすることになってしまって本当に哀れです。あ、武緒にもか。でも幼女に嫉妬してたイメージが強いな……。
今回あげるカプの中でも、内海課長に惚れたがために支払ったものがかなり重いシンパが黒崎さんです。たぶんふつうのエリートビジネスマンとして生きて行けただろうに。もうさん付けせざるをえない。かわいそう。
3:「黒崎君は最初は名無しのチョイ役だった」も驚き。
— gryphon(まとめ用RT多) (@gryphonjapan) 2017年4月17日
そして彼は「犬でしか生きられない」人間だったと。ただの実務的補佐官じゃないし、上官の寝首を掻く曲者でもなく、また人情味ある「忠臣」でもない”犬”って結構描きづらい。
個人的印象では「内海フォロワー」の悪役はいても黒崎はいない? pic.twitter.com/t0IugjTMzD
「犬」でしか生きられない奴っていると作者にすら言われる男、黒崎。どっちかというと、一匹狼で生きていけると思っていたら飼い主に出会って犬である自分を自覚してしまったという印象がありますね。これはシンパ共通の特徴。
3.闇撫の樹×仙水忍(幽☆遊☆白書)
カリスマが途中で変節しちゃったパターン。
しかし樹にとってあの変節は忍が純粋で正義を為そうとしていたからこそ起きた必然の事態ととらえているので、解釈違いにはあたらない。むしろ絶頂もん。
他のCPに比べて樹の尽くしている感は薄いのですが、樹がそもそも妖怪である点を考えると十分尽くしすぎている。死ぬまで好きにさせてやるって愛のかたちはいいと思います(こなみ)。本編中の行動原理がすべて「忍の邪魔をさせない」に一極化されてるのソーグッド。
樹が「俺達七人で穴を掘る」に入れてもらえてない辺りとか、「(忍が痛みをみせてくれなかったこと)オレはそれがすこしくやしかった」のあたりにシンパカリスマ型の片思い感があふれていて最高です。
4.黛千尋×赤司征十郎(黒子のバスケ)
黒バスから2カプ出てきてしまったのは、同作が天才についての話だからです。ただし、瀬花と黛赤以外はシンパカリスマ型ではありません。ボーダーラインは、カリスマがいなくても本編時点でシンパがバスケをしていたか。カリスマ不在でもバスケしてるであろう場合はシンパカリスマではありません。「特徴:シンパの思想信条はカリスマのそれと一致しない」を満たさないからです。(グランテールはアンジョルラスがいなければ革命運動なんてしなかった)
黛赤は、シンパがカリスマの解釈違いにいかに厳しいかを見せてくれるCPです。おわかりですね、「誰だお前」のシーンです。
赤司が自分を絶対だと信じられなくなったことを感じ取って、そんなの赤司じゃないと言い出すシンパ。怖い。
ただし黛は本人を除いて唯一「赤司は常に正しい、絶対は赤司だ」を信じていた節があるので(火神の超広域ディフェンスに攻めあぐねた赤司をノータイムで助けに行った)、そのレベルのシンパを裏切ったらまあ「誰だ」くらいは言われても仕方ないかも。その結果、自分の愛したカリスマをうっかり殺しているのも見どころです。(ああユダイエス……)
5.水戸洋平×桜木花道(SLAM DANK)
五組目にしてようやく両者とも善人といえるカプが現れたことにちょっとした悲しみを感じる。
水戸も花道を支えるために、高校生としてはかなりの代償を払っているシンパです。
- 三井の殴り込みを止めるためにバイトを無断欠勤
- バスケ部の活動継続のため謹慎処分をくらう(よく三日で済んだよな……)
- シュート二万本合宿につきあう
- IH会場の広島への往復、宿泊費(たぶんバイトで賄ってる)
- 桜木軍団の愚痴「花道がいなくてつまんねー」を聞いてあげる
などなど。
当の桜木はどんどんバスケット選手になってしまっていくので、支えれば支えるほど遠ざかっていくという厳しい現実。パトレイバーの黒崎は内海が頭おかしいクズであるがゆえに報われないのですが、水戸は桜木が正しく進んでいくがゆえに報われない。だって桜木軍団に戻る花道は解釈違いだから。シンパカリスマの辛いパターンです。「花道がいなくてつまんねー」っていちばんわめきたいのは水戸だろうよ……。
リョータにフェイクを習う桜木を見つめる水戸の微妙な表情がつらい。ついに兄貴分もできたかあ……みたいな顔。「(俺の全盛期は)今なんだよ!」を間近で聞いてしまうのもつらい。シンパは全員マゾですが、中でもマゾ度の高い男が水戸洋平です。
以上、いまのところ私が把握しているシンパカリスマ型のカップリングでした。
こういうカプ知ってたらぜひぜひ教えてください。泣いて喜びますし、ハマったら支部に小説があがります。供給がふえるよ!
よろしくお願いします。
よろしくお願いします!!
余談
霧崎第一に飢えてる人はパトレイバーを読んでください。企画七課は、企業社会で楽しそうにラフプレーをしている霧崎第一です。